どぼるざーくとゆく、高分子シミュレーション

lammpsやOCTAなどの高分子シミュレーターについて四苦八苦しながら学んでいくブログです。Twitterアカウント@lammps_octa

【お遊び】水分子と愉快なモデル達

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MD戦隊、水レンジャー!!!

はじめに

みなさんこんにちは!

前回の記事が思ったよりも長くなってしまったことと、内容が堅苦し過ぎたので今回の記事はネタに走りたいと思います(笑)

テーマは水分子です!!私たちの周りにある『水』ですが、シミュレーション界隈ではどのような扱いを受けているのでしょうか??早速見てみましょう!

 

 

 

いでよ!水分子のモデル

シミュレーション界隈に言ってみた

今やっている高分子の研究は溶媒中での挙動が重要になってくるので、シミュレーション界隈の人に「水分子を扱ってるんですよ~」と話すんですが、ほとんどの人が

「水分子は鬼門、触れてはいけない」

「学部生で水分子を扱うのは大変では?」

「全然安定しないよね~」

という辛辣なコメントをもらいます(苦笑)

実は水分子は構造がシンプルですが水素と酸素の間で量子効果が働くため、ポテンシャルを当てはめるだけでは水分子を表現することはできません(=゚ω゚)ノ

そこで水分子をMDシミュレーションで用いる場合には、用いる系に合うようなモデルを選択して使うことになります。本当にたくさんの種類があるので、今回は4つ紹介します!

ちなみに参考にした論文は『Flexible simple point-charge water model with improved liquid-state properties』というものです。

(https://aip.scitation.org/doi/full/10.1063/1.2136877?ver=pdfcov)

 

SPC

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このモデルは各粒子に電荷があり結合長・結合角が変化しないモデルです。一番簡単なモデルではありますが、定常状態(300K,1atm)では水の物性を比較的高精度に再現することが出来ます!

一般的に水分子は生体たんぱく質などのMD計算で必要になるのですが、相互作用の要素が1つ増えるごとに解析時間が最大50%も増加することが知られています。そのため出来るだけ少ないポテンシャルで水分子を表現できた方がいいんですよね。

 

TIP3P

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こいつもSPCモデルと同様に各粒子に電荷があり結合長・結合角が変化しないモデルです。SPCモデルとは電荷と結合長のパラメータが微妙に異なります。

ボンドの結合長 SPC:1.0Å TIP3P:0.9527Å

うん、、、、、めっちゃ少しやん!!もはや10のマイナス12乗レベルでしか誤差ないやん( ̄д ̄) でもこの小さな差で物性値に大きな差が出るんですよね。例えば拡散係数はSPCよりもTIP3Pの方が1.3倍も大きくなってしまいます。

ここで察して頂けたと思いますが水分子めっちゃセンシティブ。恋する乙女並みにパラメータに敏感なのです♡つまり水分子を実際の分子に近づけるには、かなり桁数を増やして計算をする必要がありそうですね(白目)

ちなみにこのモデルは生体分子のシミュレーションによく使われているらしいです。その理由としてはCHARMMと呼ばれる分子動力学シミュレーターの力場がTIP3Pをもとに作成されたからだそうです。解説記事があるので、気になる人はそちらをチェック↓

masa-cbl.hatenadiary.jp

SPC/Fd

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このモデルはSPCモデルを参考に作られたモデルですが、結合長・結合角が変化するという点が今までのモデルと異なります!実際の水分子内の結合も変化しているので、より現実に即したモデルと言えるのでしょう。

ただ現実と同じように結合長を可変にしたからといって物性値が水に近づくわけではないんですね。。。なんなら結合長を変えないモデルの方が実験に近い物性値もあるので計算時間を無駄に増やしただけなのではと思ってしまいます(シミュレーション難しい)

SPC/Fw

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最後に紹介するのはこちら!SPC/Fwモデルです。

え、SPC/Fdモデルと変わらなくない?と思った人もいるかもしれませんが、少しは変

えてるんです!!!

結合長(Å):1.0→1.012

結合角(θ):109.5→113.24

 いや、ほぼ誤差じゃん??と最初見た時には私も思いました(笑)

ただこの少しのパラメータの変更だけで、拡散係数・水素結合継続時間・粘性などの物性値が現実のモデルの物性値に近づいたそうです。特に拡散係数や粘性は生体分子のシミュレーションに大きな影響を与えるため、このモデルを使った方が生体で起きる反応をより正確に記述できるのではないでしょうか。

ちなみにこのモデルは私がシミュレーションしたことがあるので動画を挙げておきますね!


【お遊び】水分子と愉快なモデル達~SPC/Fwモデル~

さいごに

いかがでしたか?

このように身近な『水』をシミュレーションに導入するといっても、モデルの選択や計算負荷の増大、パラメータの敏感さなど考慮する点が多く存在するということが分かってもらえたでしょうか?

ちなみに参考にした論文を読むことが出来れば、lammpsでも簡単に再現することができるので興味を持った人は是非やってみてください!