どぼるざーくとゆく、高分子シミュレーション

lammpsやOCTAなどの高分子シミュレーターについて四苦八苦しながら学んでいくブログです。Twitterアカウント@lammps_octa

【お勉強】分子動力学法-2(分子動力学法で分かること)

はじめに

今回の記事では、分子動力学法からわかる情報について解説したいと思います!

(次から実際のシミュレーションを再開するので、もう少しお付き合いください!)

 

 

分子動力学法で分かること

直接わかること

まず何も計算しなくても分かることは『原子の位置や速度(一次情報)』です。また速度別に分布をグラフ化すると、平衡状態の速度分布(マクスウェル・ボルツマン分布)も分かります。

 

これらの一次情報から、

静的な物理量:温度, 圧力, 比熱, 動径分布関数など

動的な物理量:拡散係数, 粘性係数など

が分かります!

以下ではこれらの物理量がどのように算出されるのかなどを説明します。

 

・温度

 分子動力学法では『エネルギー等分配則』が成り立ちます。エネルギー等分配則とは、

系の持つ自由度ごとに一定量のエネルギーが配分されるという統計力学の法則(Wikipedia)

 というものです。この法則が成り立つのは、運動エネルギーの平均値を近似し量子力学的な効果が無視できる場合だそうですが、ここでは詳しい話は省きます。

(参考にするならここ?⇒https://eman-physics.net/statistic/equipartition.html)

ここでエネルギー等分配則が成り立つとき、1自由度あたりエネルギーは『1/2kBT』づつ分配されます。つまりn個の粒子がある系では、以下の式が成り立ちます。

f:id:toal_peg_simu:20200114223903p:plain(x,y,z方向に自由度があるため3倍されている)

よって系の温度は粒子の速度から求めることができるんです!
 

・圧力

次に圧力についてですが、圧力は『ビリアル定理』より算出します。ビリアル定理とは、

多粒子系において、粒子が動き得る範囲が有限である場合に、古典力学量子力学系のいずれにおいても成立する以下の関係式のこと

f:id:toal_peg_simu:20200114224607p:plain(Wiki)

 というものです。ここでも複雑な説明は省きますが、運動エネルギーとポテンシャルエネルギーに関係性を与える定理、と思ってもらえればいいと思います。この式を変形すると、

f:id:toal_peg_simu:20200114225309p:plainとなり、f:id:toal_peg_simu:20200114225323p:plainf:id:toal_peg_simu:20200114225331p:plainを代入すると、

f:id:toal_peg_simu:20200114225452p:plain

が算出されます。つまり系の圧力は原子の速度・位置・力から求めることができます。圧力は式を見ればよく分かりますが、ポテンシャル関数に依存しているため圧力の揺らぎは大きくなります。シミュレーションで議論可能な圧力データを得るには長時間の解析が必要になるので大変ですね・・・

 

・動径分布関数

そもそも動径分布関数とは、

等方的な系(または角度依存性を近似的に無視できる系、球対称な系)の中で、ある物理量の分布が原点からの距離 r のみの関数である場合に、その分布を表す関数である。(Wikipedia)

という物理量です。シミュレーションでよく用いられるのは粒子同士の距離の分布です。例えば現実の水分子と水分子のモデルの差異を検証する際に、水素原子と酸素原子の分布で比較したりします。

系全体の動径分布関数g(r)は、

f:id:toal_peg_simu:20200114231011p:plain

で表せます。つまり特定の時刻における粒子の位置から算出することができます。

 

・拡散係数

拡散係数とは、濃度勾配がある場合に単位時間あたり物質が移動する量(流束)を示す物理量です。この物理量が分かると、ある溶媒中の溶質の運動について議論できるようになります。

もし1種類の物質のみから成る系の拡散係数(自己拡散係数)について考えるなら、

f:id:toal_peg_simu:20200114232202p:plain

というアインシュタインの関係式が成り立ちます。つまり各時間の粒子の位置から拡散係数も算出できるんです!

 

周期境界条件

最後に分子動力学法をマクロスケールまで適用するための手法、周期境界条件について説明します。

周期境界条件とは、マクロな系(10^{23}オーダー)をシミュレーションで扱えるミクロな系(10^{9}オーダー)で表せるようにする『賢い』境界の設定です。

f:id:toal_peg_simu:20200114234108p:plain

図で簡単に解説すると上図のようになります。中央のセルのみが計算対象の系で、そのセルの周りに模写した仮想セルを配置します。このセルから粒子が出た場合にはセルの反対側から粒子が侵入するようになります。またセルの境界付近でポテンシャルについて考える時は、仮想セルの粒子も考慮に入れて計算が行われるようになります。

このような条件にすることで有限個の原子からバルクの系を再現できるようになります。ただしポテンシャルのカットオフ距離や系の大きさを適切に定義しなければならなないため、慎重に解析パラメータを設定する必要があるがあります。

さいごに

 いかがでしたか??

今回は分子動力学法から得られる情報とバルクの物性を表現するためのシミュレーションの工夫について解説しました。

疑問点があればコメントお願いします(=゚ω゚)ノ